夜になりますとみんなふつうの住まいのところへは寝ないんです。なぜかというと、朝鮮人が暴れて来るというんでね。それでお前は火傷をして大変なんだからって、小松川の土手へ行って蚊帳をはって、その中へ寝かせてくれたんです。
そうすると表でドヤドヤと歩く音がするんですよ。何だと思ったら、朝鮮人を検査しているんですね。歩いている人に『これを読め』ってんで、朝日とかバットとか敷島とかのタバコを出して。それで、日本人でもずいぶんやられたと思うんですけど、バットってことを朝鮮人の人は言えないんですね。ハットとかなっちゃう。そうすると、『コノヤロウ』と言ってダーッと切るんですよ、日本刀ですよ。切り付けてそのまま行っちゃうんです、みんな自警団ですね。私なんか、土手にいてその現場を見ていたんですから。恐ろしいしね、寝ているどころじゃあないですよ。
朝鮮人の話は、おじさんの家に行ったとき。9月4日頃じゃあないのでしょうか。私は包帯巻きだから『お前は何だ』『朝鮮人だろう』なんて言われました。おじさんやなんかがよくかばってくれたんです。ちょうど小松川の土手へ行く手前のところですけど。
(『江戸東京博物館調査報告書10 関東大震災と安政江戸地震』2000年)
解説◎
被服廠で被災した小椻政男さんの証言。聞き取りは1990年。