自警団の暴行、朝鮮人虐殺その他
九月一日夜から数日間の帝都及びその附近に於ては、未曾有の大震災とそれに伴つて伝わつた出鱈目な流言蜚語のために、すつかり度を失つた民衆によつて、まことに恥づべきところの不祥なる出来事、戦慄すべき惨虐事が到るところに現出された。
即ち鮮人暴動の流言に血迷つた自警団の鮮人及び鮮人と誤つた内地人に対する虐殺事件である。この恐るべき事件は、五十日に亘(わた)つて新聞雑誌の報道を差止められてゐたが、十月二十一日その一部分は解禁されたので、全国新聞は一斉に筆を揃へて書き立て、更らにわれらの心を暗くさせた。
田中貢太郎/高山辰三『日本大震災史』(教文社、1924年1月刊)
解説◎
「自警団の暴行と朝鮮人虐殺」。震災の 4ヵ月後には、これが世の中の一般的な認識となっていたのである。田中貢太郎[1880-1941年]は実録ものや怪談で知られる作家。