2014年10月15日水曜日

船橋警察署巡査部長の手記/流言飛語について

警察電話が鳴るので受話器を取って聴くと、「ただ今、東京市内から来た朝鮮人と市川の砲兵隊が、江戸川を挟んで交戦中です」との情報が入った。
これが流言の最初であった。
私は、平和であった東京に大変なことが起ったと思いながら、元吉署長にその旨を報告した。九月二日の午後のことであった。
私達は、東京からの避難民を、船橋小学校の雨天体操場や習志野捕虜収容所や兵舎等に誘導収容して、不眠不休の活動が続いた。
九月四日になると、色々な事実無根の流言が飛びかった。
「朝鮮人が約二千人、浦安町に上陸して、自転車隊となり船橋の無線電信所を襲撃する。警戒せよ!」「船橋の三田浜海岸に、朝鮮人が数隻の船で上陸する。警戒せよ!」「只今、中山で警官と朝鮮人が衝突し、多くの怪我人が出た。」「朝鮮人が、東京で井戸に毒薬を入れたり、婦女暴行騒ぎ等があって大変だ。」その他、色々な流言が飛んだが、警戒したり調査すると、根も葉もない流言であったことが判明した。
これらの流言も、冷静に判断すれば直ぐに判ることであった。浦安に上陸して二千人の自転車を調達することは出来ないことであったし、後で考えてみれば良く判ることである。
大事に際して、冷静沈着が大切であると思う。

    千葉県における追悼・調査実行委員会編『いわれなく殺された人びと』青木書店
    に収録された渡辺良雄さんの手記「関東大震災の追憶」から


解説◎
震災当時、船橋警察署巡査部長であった渡辺良雄さんによる手記。渡辺さんはその後、千葉警察署長まで務めて退職し、千葉市助役を経て戦後は千葉県議会議員に(4期)。所属は自民党である。手記のこの部分では、警察内部での連絡を通じて流言が拡大していくさまが記録されている。